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斜面を転がり落ちる剛体球 (a rigid sphere rolling down a slope)


図1 斜面を転がり落ちる剛体球

水平面とのなす角が β の粗い斜面上の点 O に静止させた,質量 M ,半径 R の一様な剛体球を静かに放すと,この剛体球は斜面上を滑ることなく転がり落ちた.図1に示すように,斜面に沿って下向きに x 軸,斜面に垂直に y をとり,重力加速度の大きさを g として,この剛体球の運動を考える.また,この座標系での剛体球の重心 G の位置を rG = (X,Y) ,剛体球が点 O に接している状態を基準とした剛体球の回転角を θ ,剛体球の重心 G を通る回転軸周りの慣性モーメント IG とする.



図2 剛体球に作用する力

◆ 剛体球に作用する力

図2に示すように剛体球に作用する力は

・重力(作用点は重心 G ):
       Mg= ( Mgsinβ,Mgcosβ )

・斜面からの垂直抗力:
       N= (0,N)

・剛体球と斜面との間の摩擦力:
       F= (F,0)

である.ここで N F はそれぞれ,垂直抗力の大きさ,摩擦力の大きさである.また,剛体球は斜面上を滑らないことから,この摩擦力は静止摩擦力である.


◆ 剛体球の重心の運動方程式

剛体球の重心 G の並進運動についての運動方程式 M d2 rG dt2 = Mg+N+F を成分ごとに記述すると

重心の運動方程式の x 方向成分: M d2X dt2 = MgsinβF     --- (1)

重心の運動方程式の y 方向成分: M d2Y dt2 = MgcosβN =0     --- (2)

となる.ここで,剛体球の重心 G y 方向において運動しないので, y 方向の力はつり合っており,式(2)の右辺はゼロとなる.


◆ 剛体球の回転運動方程式

剛体球の重心 G のまわりの力のモーメント(トルク)の回転軸方向( z 方向)成分は τ=RF であるので, 剛体球の回転運動方程式は次式となる:

IG d2θ dt2 = τ =RF     --- (3)

【式(3)の導出】

重心 G を通る固定軸のまわりで回転する剛体について,その回転軸まわりの剛体の慣性モーメントを IG ,回転運動の角速度 ω とすると,剛体の角運動量の回転軸方向( z 方向)成分は L=IGω と表される.

今の場合,剛体球の重心 G から斜面との接点までの位置ベクトルを R= ( 0,R,0 ) z 成分は xy 面に垂直な方向の成分)とすると,重心 G のまわりの,剛体球に作用する力のモーメント(トルク)

τ= 0×Mg +R×N +R×F =( 0,0,RF )

となる(外積の計算を実行するために,各々の力において値が 0 z 成分を考慮する).したがって,力のモーメントの回転軸方向( z 方向)成分は τ=RF であるので,回転運動の法則より

dL dt = IG dω dt = IG d2θ dt =RF

が求まる.ここで, ω= dθ dt を用いた.


◆ 重心の加速度

剛体球が斜面上を滑らずに転がり落ちるという条件から

「重心の移動距離 X (図1の赤い直線の長さ)
||
「回転角 θ に対応した弧の長さ Rθ (図1の赤い円弧の長さ)

である.よって,上の条件を時刻 t で微分して

dX dt =R dθ dt     --- (4)

が得られ,式(4)をさらに時刻 t で微分して

d2X dt2 =R d2θ dt2     --- (5)

が得られる.

式(1)と式(3)を連立させて F を消去し,さらに式(5)の関係を用いて整理すると

M+ IG R2 d2X dt2 = Mgsinβ     --- (6)

が得られる.したがって,剛体球の重心 G の加速度の x 方向成分は次式となる:

d2X dt2 = gsinβ 1+ IG MR2     --- (7)

式(7)の右辺は時刻に依らず一定の値をとることから,剛体球の重心 G は斜面に沿って等加速度直線運動することが分かる.

【摩擦がない場合との比較】

もし,滑らかな斜面で剛体球と斜面との間に摩擦力が作用しない場合,式(3)の右辺の力のモーメント(トルク)がゼロとなるので剛体球は回転せずに滑り落ちる.この場合,剛体球の重心の運動方程式の x 方向成分は

M d2X dt2 = Mgsinβ

となるので,重心の加速度の x 方向成分は

※ 摩擦なしの場合   d2X dt2 =gsinβ     --- (8)

であり,斜面を滑り落ちる質点の運動と同様となる.式(7)と式(8)を比較すると,式(7)の右辺の分母の IG / MR2 の項がある分だけ,剛体球が滑らず転がり落ちるときの加速度(7)は,摩擦がなく剛体球が回転せずに滑り落ちるときの加速度(8)に比べて小さくなる.

質量 M ,半径 R の一様な剛体球の重心を通る回転軸まわりの慣性モーメントは IG =25 MR2 なので,式(7)は

d2X dt2 = gsinβ 1+25 =57 gsinβ     --- (9)

となり,摩擦がなく剛体球が回転せずに滑り落ちるときの加速度(8)の 5/7 倍であることが分かる.剛体球以外の球殻や円柱,円筒の場合でも,それぞれに対応する慣性モーメント IG の値を代入すれば,各剛体に対応する加速度が求まる(⇒ 様々な剛体の慣性モーメント).


◆ 角加速度,静止摩擦力

式(5),(7)より,剛体球の回転運動の角加速度 α

α= d2θ dt2 = 1R gsinβ 1+ IG MR2     --- (10)

となり,式(3)から静止摩擦力の大きさ F

F= IG R2 gsinβ 1+ IG MR2 = Mgsinβ 1+ MR2 IG     --- (11)

と求まる.剛体球の場合, IG =25 MR2 を代入すると, F= 27 Mgsinβ となる.


◆ 斜面の下端での速さ

重心の速度の斜面下向き( x 方向)成分を V= dXdt ,加速度の x 方向成分を A= d2Xdt2 とおくと,よく知られた等加速度直線運動の公式 V2V02=2AX が成り立つ. V を斜面の下端(点 P )での速さとして,点 O での速さ V0=0 OP 間の距離 X= hsinβ ,および式(7)を代入して

V2 =2 gsinβ 1+ IG MR2 hsinβ = 2gh 1+ IG MR2     ⇒     V= 2gh 1+ IG MR2     --- (12)

を得る.ここで, h は点 P を基準としたときの 点 O の高さである.剛体球の場合, IG =25 MR2 を代入すると, V= 107 gh となる.

力学的エネルギー保存則から求める方法

質量 M ,重心を通る回転軸まわりの慣性モーメント IG の剛体について,重心が速さ V で並進運動し,重心まわりに角速度 ω で回転運動しているとき

並進運動エネルギー: KT =12MV2
回転運動エネルギー: KR =12IGω2

今の場合,式(4)より V=Rω なので,剛体の運動エネルギーは

K=KT+KR =12MV2+ 12IGR2V2 =12M ( 1+ IG MR2 ) V2

と表せる.図1の点 P を重力による位置エネルギーの基準点とすると

O での力学的エネルギー: EO=Mgh
P での力学的エネルギー: EP= 12M ( 1+ IG MR2 ) V2

剛体が滑らないので摩擦力は仕事をせず,力学的エネルギーが保存される.したがって, EO=EP より

Mgh= 12M ( 1+ IG MR2 ) V2     ⇒     V2= 2gh 1+ IG MR2

が得られ,式(12)が求まる.この運動が等加速度直線運動であることを知っていれば,この結果から V2V02=2AX を利用して,重心の加速度 A を求めることができる(つまり,運動方程式を立てなくても加速度を求められるということ).

斜面を転がり落ちる剛体のシミュレーション


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