中心極限定理シミュレーション教材(1)--確率密度関数5タイプ
1 このアプリでできること
ある母集団(データの生まれる元の分布)から
個の標本を1組 として何度も抽出し,そのたびに計算される 標本平均 と 不偏分散 がどんな分布になるかを,ヒストグラムで観察するシミュレーターである.
ポイント:母集団の形(一様・三角・V字・正規)を自由に選べる.母集団がどんなに「正規分布らしくない」形でも, 標本平均の分布は釣鐘型(正規分布)に近づく ― この不思議な現象を体感するのが目的である.
2 学ぶ内容 ― 中心極限定理(CLT)
母集団の平均を
(母平均),分散を
(母分散) とする.この母集団から大きさ
の標本をとって
標本平均
を求める操作を何度も繰り返すと,
の分布について次が成り立つ.
は近似的に
に従う
つまり ―
- 標本平均の 平均は母平均
に一致 する(ばらつきの中心は動かない).
- 標本平均の 分散は
= 母集団の
分の1になる(標本を増やすほど平均は安定する).
- そして分布の 形は,母集団が何であっても正規分布(釣鐘型)に近づく.
これが中心極限定理の核心である.
なぜ重要? 現実のデータの多くは正規分布ではない.それでも「平均」を扱うかぎり正規分布の性質(68-95-99.7% など)が使えるため,
推定・
検定・
信頼区間といった統計学の土台がこの定理に支えられている.
あわせて確かめられること:不偏分散
各組から計算する
は,平均すると母分散
に一致する(=
の「かたよりのない」推定値である).「
で割る」理由をデータで確認できる.
3 使い方(操作手順)
- 母集団を選ぶ
左パネル「母集団の選択」から関数1~5をクリック.曲線のサムネイルで分布の形が分かる.選ぶとグラフと階級が選んだ分布に合わせてリセットされる.
- 標本数
を決める
「標本数
」に1組あたりの標本数を入力(初期値40).大きくすると標本平均の分布が細く鋭くなる.
軸を母集団分布と同じ範囲に固定のチェックをはずすと分布の目盛間隔が広がりグラフの数値が読み取りやすくなる.
- 試行回数を決める
「1回の試行回数」=ボタン1回で何組ぶん抽出するか(初期値100).多いほどヒストグラムが滑らかになる.
- 実行する
サンプリング実行 で指定回数を一気に追加.+1,+10,+100,+1000 ボタンでも追加できる.結果は押すたびに 累積 される.
- 自動で眺める
自動
を押すと連続で試行を追加し,分布が育っていく様子をアニメーションで観察できる.もう一度押すと停止.
- やり直す
「初期化(リセット)」で累積データを消去.条件を変えて比較したいときに使う.
おすすめの最初の一歩:関数3(V字型)を選び +1000 を2~3回押してみてください.母集団は真ん中がへこんだ形なのに,
標本平均のグラフだけはきれいな山型になる.
4 5つの母集団分布
いずれも逆関数法で生成.関数1~4は区間 [1,5],関数5は正規分布です.母平均
,母分散
は理論値.
| 関数 |
形 |
確率密度
|
母平均 μ |
母分散 σ2 |
| 関数1一様分布 |
平ら |
1/4([1,5]で一定) |
3 |
4/3 ≈ 1.333 |
| 関数2増加型(右上がり三角) |
右肩上がり |
|
11/3≈3.667 |
8/9 ≈ 0.889 |
| 関数3V字型(谷型) |
中央がへこむ |
|
3 |
2 |
| 関数4減少型(右下がり三角) |
右肩下がり |
|
7/3≈2.333 |
8/9 ≈ 0.889 |
| 関数5正規分布 |
釣鐘型 |
|
3 |
1 |
比べるコツ:関数3(
)は最もばらつきが大きく,関数5(
)は最も小さい.母分散
が大きいほど,
同じ
でも標本平均の分布(
)は横に広がる.
5 3つのグラフの読み方
① 母集団分布
全標本の相対度数
抽出した すべての標本 を積み上げたヒストグラム.試行を重ねるほど,重ねて描かれる母集団の確率密度曲線に ぴったり一致 する.「選んだ分布から正しく生成できているか」の確認.
② 標本平均の分布
← 中心極限定理
各組の 標本平均 のヒストグラム.母集団の形に関わらず
の釣鐘曲線 に近づく.このアプリの主役.中央の破線は母平均
.
③ 不偏分散の分布
ばらつきの推定
各組の 不偏分散 のヒストグラム.山の中心(平均)が母分散
(緑の破線)に近づくことを確認できる.
※ 縦軸は「相対度数 ÷ 階級幅」= 密度.棒の面積の合計が1になり,理論曲線と直接くらべられます.
階級の設定
ヒストグラムは横軸を「階級」に区切り,各階級に入った標本の個数を数えて棒にする.3つのグラフとも 階級数は40個,幅は等間隔で,階級幅 = 範囲 ÷ 40 で決まる.
① 母集団分布の階級のグラフ
母集団を選んだ時点で,分布が存在する区間(台)の 両側に「余白」を6%ずつ足した範囲を40等分する.
範囲 = [ 下限 − 余白 , 上限 + 余白 ] (余白 = 台の幅 × 0.06)
| 母集団 |
台(分布の区間) |
余白 |
階級の範囲 |
階級幅 |
| 関数1~4 |
[1, 5](幅4) |
4 × 0.06 = 0.24 |
[0.76, 5.24](幅4.48) |
4.48 ÷ 40 ≈ 0.112 |
| 関数5(正規) |
[0, 6](表示上の幅6) |
6 × 0.06 = 0.36 |
[?0.36, 6.36](幅6.72) |
6.72 ÷ 40 ≈ 0.168 |
なぜ余白を足すのか:(1)端の棒や理論曲線がグラフ枠に張り付くのを防ぎ,分布の「始まり/終わり」を見やすくするため.(2)区間の境界ちょうどの値(例:
や
)が,階級の端で取りこぼされずに必ずどれかの階級へ収まるようにするため.余白部分は理論密度が0なので,面積=1の正規化には影響しない.
「全標本の密度」の計算方法
グラフの棒の高さ(=全標本の密度)は,次の3ステップで求める.
- 階級に区切る
前項のとおり,横軸を40個の等幅の階級(幅 Δ)に区切る.
- 標本を数える(度数)
抽出した標本
を1個ずつ,該当する階級のカウントに +1.全試行の全標本(= 試行回数 ×
個)ぶんを累積し,各階級の度数 counti と総数 total を得る.
- 密度に変換する
度数を「相対度数 ÷ 階級幅」に直したものが密度である.
密度i = counti/ ( total × Δ ) = 相対度数 ÷ 階級幅
ounti / total はその階級に入った標本の割合(相対度数),それを階級幅 Δ で割ると密度になる.
なぜ「÷ 階級幅」するのか:こうすると全部の棒の面積の合計が必ず1になる( Σ密度i × Δ = Σcounti/total = 1).面積が1に揃うので,理論上の確率密度関数(ピンクの曲線)と同じ土俵で直接くらべられるわけである.試行を増やすほど,棒が理論曲線にぴったり重なっていく.
具体例(関数1:一様分布):階級幅 Δ ≈ 0.112.標本を大量に集めると各階級にほぼ均等に入り,密度は理論値 1/4 = 0.25 の水平線に収束する.たとえば全標本 320,000 個・ある階級に約 8,960 個なら,密度 = 8960 ÷ (320000 × 0.112) ≈ 0.25.
② 標本平均 , ➂ 不偏分散の階級のグラフ
この2つは理論値を中心に自動で範囲を合わせます(母集団や
を変えると自動調整).② 標本平均は
を40等分,➂ 不偏分散は
を中心にした範囲を40等分.
を大きくすると②の範囲が狭くなり,山が細く見えるのはこのたである.
6 統計量の見方
左下の統計量パネルで,理論値と実測値を数値で照合できます.試行を増やすほど下の3つ(緑)が理論に近づきます.
| 表示 |
意味 |
近づく値(理論) |
| 母平均
, 母分散
|
選んだ母集団の理論値 |
―(固定) |
|
(理論) |
標本平均の分散の理論値 |
― |
|
(標準誤差) |
標本平均の散らばりの目安 |
― |
| 直近の標本平均 / 不偏分散 |
最後に抽出した1組の値 |
毎回変動 |
| 標本平均の平均 |
これまでの標本平均の平均 |
→
|
| 不偏分散の平均 |
これまでの不偏分散の平均 |
→
|
| 標本平均の分散 |
標本平均どうしのばらつき |
→
|
| 母分散 ÷ 標本平均の分散 |
上の2つの比 |
→
|
チェック:「母分散 ÷ 標本平均の分散」が標本数
にほぼ等しくなれば,
の関係を実測で確かめられた証拠である.
7 試してほしい実験
- 形は関係ない:関数1~5を切り替えても,①のグラフはどれも釣鐘型に.母集団の形を問わないことを実感.
-
を変える:
→
→
と大きくすると,②の山が 細く高く なる(分散
が小さくなる).「標準誤差
」の値の減り方も確認.
- 試行回数の効果:+10と+1000で,ヒストグラムのなめらかさの差を比較(試行を増やすほど理論曲線にフィット).
-
の違い:
が最大の関数3と最小の関数5を同じ
で比べ,②の横幅の違いを見る.
- 不偏分散の意味:➂の平均が
に一致 = 「
で割る」不偏推定が正しいことを数値で確認.
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最終更新日:2026年9月13日