「斜面を転がり落ちる剛体」実験モジュール

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【実験の目的】

剛体(ゴルフボール,卓球ボール,テニスボール)が斜面を転がり落ちる時間を測定し,その測定値から剛体の並進運動の加速度を見積もり,各剛体の慣性モーメントの影響を調べる.


【原理・理論】

図1 斜面を転がり落ちる剛体

図1のように,質量 M ,半径 R の一様な剛体とみなせるボールが,初速ゼロで水平面とのなす角 β の粗い斜面上の点 O から滑らずに転がり落ちる.斜面に沿って下向きに x 軸をとり,重力加速度の大きさを g とする.また, x 軸方向のボールの重心 G の加速度を A ,ボールの重心を通る回転軸まわりの慣性モーメントを IG ,その回転運動における角加速度 α とする.

斜面に沿った方向において,剛体には重力の斜面下向き成分( Mgsinβ )と斜面上向きに大きさ f 静止摩擦力が作用するので,剛体の重心の運動方程式(の x 方向成分)は

MA = Mgsinβf     --- (1)

となる.また,剛体には静止摩擦力による重心まわりのトルク(力のモーメント) RF が生じるので,回転運動方程式は

IGα =RF     --- (2)

となる.剛体が斜面上を滑らずに転がり落ちる場合

A=Rα     --- (3)

が成り立ち,式(1),(2),(3)を連立して, F α を消去すると,加速度

A= gsinβ 1+ IG MR2     --- (4)

が得られ,時刻に依らず一定の加速度であることが分かる.

【参照】斜面を転がり落ちる剛体球


【実験器具】
No.品名サイズなど数量
1ゴルフボール直径:約 43 mm1個
2卓球ボール直径:約 40 mm1個
3テニスボール(硬式)直径:約 66-68 mm1個
4桧加工材(斜面用の板)910 × 100 × 12 mm 程度1枚
5桧加工剤(スタンド用の木片)120 × 62 × 37 mm 程度1個
6ストップ付コンベックス1 m 以上測れるもの1個
7定規30-50 cm 程度3枚
8ノギス1個
9質量計(はかり)1台
10ストップウォッチ1個


図2 実験器具の写真 ※ 上表にないミニカー(黒・赤)も含む.


図3 実験装置の組み立て例

【実験の準備】
  1. 【原理・理論】における図1のように,桧加工材(斜面用の板(器具4),スタンド用の木片(器具5))で剛体を転がす斜面を組み立てる(転がす剛体が斜面板の横から落ちないように,【実験器具】における図3の組み立て例のように,定規(器具7)2本を用いてガードレールを設置するとよい).斜面上で剛体を転がし始める位置(開始点 O )を決定し(決定した位置に鉛筆などで印をつける),その位置から斜面下端までの距離 X を測定する.【実験器具】の表に示したサイズの斜面板を用いる場合 X=0.80 m 程度にするとよい.準備の時点では,スタンド用の木片は適当に設置しておく(開始点 O の高さ h は適当でよい).

    X= 〔m〕


  2. ゴルフボール(器具1),卓球ボール(器具2),テニスボール(器具3)の質量を質量計(器具9)で,直径をノギス(器具8)で測定し,下の表1に記入する(表の半径の欄には測定した直径を2で割った値を入力する).
    <表1> 質量〔kg〕 半径〔m〕 剛体球の慣性モーメント 剛体球殻の慣性モーメント
    ゴルフボール
    卓球ボール
    テニスボール

    ※ 各ボールの質量と半径を入力して「慣性モーメントを計算」ボタンを押すと,剛体球とみなした場合の慣性モーメントと剛体球殻とみなした場合の慣性モーメントの値を表示する.数値は科学的表記されており,「#.###e±n」は「#.###×10±n」を表す.


【測定方法】

開始位置の高さ h を変えながら,各種ボールが開始位置から下端まで斜面を滑らずに転がり落ちる時間をストップウォッチで測定する.


図4 定規による開始位置でのボールの制止
  1. スタンド用の木片(器具5)の位置を調整し,剛体ボールを転がす開始位置の高さを決めて,その高さ h を定規で測定する.最初の測定では,スタンド用の木片を横向きにして,斜面用の板(器具4)の端付近に設置し, h を低く設定するとよい.
  2. 図4のように定規(器具7)を用いて剛体ボールを開始位置で静止させる.その際,定規で支えるボールの先端の位置が開始位置(点 O )に一致するよう定規を設置する.
  3. ストップウォッチのスタートボタンを押すと同時に定規をすばやく取り外し,剛体ボールを転がす.このときボールに定規による力が加わらないよう注意する.

  4. ボールの先端が斜面下端に達した瞬間にストップウォッチのストップボタンを押し,測定した時間を集計表に記入する(下に示すような集計表に記入するとよい).必ず同じ高さ h で複数回(5回程度)測定して平均をとる.また,同じ高さでボールの種類(ゴルフボール,卓球ボール,テニスボール)を変えて同様に転がり落ちる時間を測定する.

  5. スタンド用の木片(器具5)を調整して開始位置の高さ h を変え,同様の計測を行い,測定結果を集計する.開始位置の高さについては,斜面の角度 β を徐々に大きくして,5通りの高さで測定する.

【集計表】

測定時間を t として,各種ボールの加速度 A を一定(等加速度直線運動)とすると, A t には

12At2 =X     ⇒     A= 2Xt2

の関係がある.測定結果をもとに,ボールの加速度 A を計算し,有効数字を考慮して集計表に記入する.(下表では,5回の測定時間 t1 t5 を入力して集計ボタンを押せば,測定時間の平均値 L ,加速度 A を自動的に計算する.ただし,ボールが転がり落ちる距離 X を事前に【実験の準備】の記入欄に入力しておく必要がある.)

◆ ゴルフボール
高さ
h 〔m〕
測定時間(5回測定) 平均時間 加速度
A 〔m/s2
t1 〔s〕 t2 〔s〕 t3 〔s〕 t4 〔s〕 t5 〔s〕 t ¯ 〔s〕
◆ 卓球ボール
高さ
h 〔m〕
測定時間(5回測定) 平均時間 加速度
A 〔m/s2
t1 〔s〕 t2 〔s〕 t3 〔s〕 t4 〔s〕 t5 〔s〕 t ¯ 〔s〕
◆ テニスボール
高さ
h 〔m〕
測定時間(5回測定) 平均時間 加速度
A 〔m/s2
t1 〔s〕 t2 〔s〕 t3 〔s〕 t4 〔s〕 t5 〔s〕 t ¯ 〔s〕

    


【解析】

集計したゴルフボール・卓球ボール・テニスボールのデータについて,グラフ用紙(標準方眼用紙)を用いて,横軸に高さ h ,縦軸に加速度 A をとって散布図を描く(参考:グラフの作成の仕方).3種類のボールについての散布図は1枚のグラフ用紙に重ねて描けばよい.上述の【原理・理論】斜面を転がり落ちる剛体球)によると,点 O から斜面下端までの距離を X ,斜面下端を基準とした点 O の高さを h とすると sinβ=h/X より,【原理・理論】における式(4)は

A= g/X 1+ IG MR2 h     --- (5)

と表され,重心の加速度 A と高さ h には線形関係がある.原点を通って,描いた散布図のデータを最もよく表す近似直線(回帰直線)を引き,その近似直線の傾きと式(5)との関係から,各ボールの慣性モーメント IG を見積もる:

近似直線の傾きの値 a= g/X 1+ IG MR2     ⇒     IG = (1gaX) MR2

求めた慣性モーメントの値を,【実験の準備】において各種ボールを剛体球または剛体球殻とみなして計算した慣性モーメントの値と比較するとよい.散布図や近似直線の描画にはExcelのようにグラフを作成できるソフトウェアを用いるのもよいであろう(Excelには回帰直線を自動で引いてくれる機能がある).集計・解析が終われば,実験レポートを作成する(参考:実験レポートの書き方).


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